間違いやすい日本語|「存亡の機」「足をすくわれる」 一字加えると誤用になる慣用句

間違いやすい日本語|「存亡の機」「足をすくわれる」 一字加えると誤用になる慣用句


付け加える必要のないものを「蛇足」といいますが、知っているつもりの言葉でも、いらない一文字を加えていることがあるかもしれません。今回は、漢字一文字で間違ってしまう日本語をご紹介します。

大事なかなめか、危ない状態か 「存亡の機」

「存在と滅亡」を表した言葉、「存亡」について、まずはこの言葉の使い方のクイズです。

問. 「存続するか滅亡するかの重大な局面」を表す言葉はどちらでしょう

1. 存亡の機
2. 存亡の危機

答えは1「存亡の機」です。この問は、文化庁による平成28年度「国語に関する世論調査」で、実際に出題されたものですが、調査の結果、本来のいい方ではない「存亡の危機」を選んだ人がなんと8割を超えるという結果が出ました。

「存亡の機(き)」は、古代中国の戦国時代、遊説家の弁論や逸話をまとめた書物『戦国策』に出てくる言葉です。「機」には、「機を見る」などというように機会、時機といった意味があります。また物事の大事なところ、かなめ、といった意味もあります。「危機」という言葉は「極めて危ない状態」のことに限定されます。しかし「存亡」という場合、「存」の可能性もあるわけですから、存亡の機は、生き残るか、滅亡するかの「かなめ」や重大な「時機」を指すものとして、「機」を使うのが本来とされます。

とはいえ、「存亡の危機」も文脈に即していれば日本語として不自然ではなく、間違っているとはいい切れません。ただし、本来のいい方は知っておいたほうが良いでしょう。

「存亡の機」と同意の言葉に、「存亡の秋」があります。この「秋」は「とき」と読むのが正解。こちらは中国の三国時代、諸葛亮が蜀の皇帝に奏上した前出師表に記されている「危急存亡之秋」が基になっています。こちらの「秋(とき)」も「重大な時期」を指す言葉。同様の使い方をした言葉に、事件や問題が多く起こっている時期や、国家や社会が不安定な時のことをいう「多事之秋(たじのとき)」があります。「存亡の機」の本来のいい方とともに、「秋(とき)」の読み方もぜひ合わせて覚えておいてください。

払われるのは足か足下か 足をすくわれる

柔道や相撲などの技に、「足払い」があります。足や手で相手の足を払って重心を崩し、体を倒す技ですが、タイミングが合うと見事にスパッと決まります。このように、人は思いがけず片足の支えを失い、攻撃を受けると、たちどころに体を崩されてしまうものだということがよくわかります。

今回は、この「足払い」にまつわる慣用句からクイズです。

問. 「卑劣なやり方で、失敗させられること」を表す言葉はどちらでしょう

1. 足下をすくわれる
2. 足をすくわれる

答えは2の「足をすくわれる」です。辞書で「足をすくう(掬う)」を調べると、「(相手の足を払うようにして支えを失わせる意から)相手のすきに付け入って、思いがけない手段で相手を失敗、敗北に導く(精選版 日本国語大辞典)」と出ています。「足をすくわれる」とはまさに、タイミングを見計らって足払いをかけられた状況を例えに使った言葉なのです。


先ほどのクイズは、平成28年度の「国語に関する世論調査」で出題されたものです。どちらのいい方を使うか尋ねたところ、6割を超える人が、本来のいい方ではない「足下をすくわれる」のほうを選んでいました。

「足もと(足下・足元)をすくわれる」は慣用句としては間違いといわれているのですが、その理由としては、すくわれるのは足もとではなく、足であるからだといわれています。「足もと」を「足が地についている場所」と定義すれば、たしかに、すくうのは無理ですね。しかし、「足もと」には「足の下部」の意味もありますから、足もとをすくうといういい方は絶対に間違いだとはいい切れません。また、「足もとを見る」「足もとに付け込む」という慣用句もあるように、「足もと」は「弱点」を想起させる言葉です。こうした影響もあって、「足もとをすくわれる」といういい方を多くの人が使うようになっていったのではないでしょうか。

格闘技でもしていない限り、足のすくい技をかけられる体験はなかなかできるものではありませんが、支えを不意に失って倒される感覚というのは不思議と想像できるものです。「足をすくわれる」が「すきをつかれて失敗させられる」意味として誰にでも通じる慣用句になっていったのは日本語のおもしろいところですね。

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